この記事で分かること
- 認知症の3つの段階が分かる
- 認知症と転倒の関係性が分かる
- 認知症の対策が分かる
目次
認知症の3つの段階
認知症には、大きく分けて段階が3つあります。
- SCD(主観的認知機能低下)
ど忘れが増えたり、理由もなくイライラしたりなど日常生活に問題なく周囲も気付いていないが、自分だけが何となく感じている状態 - MCI(軽度認知機能障害)
周囲も本人も気付いているが、日常生活では大きな問題はなく、検査上も診断されない状態 - 認知症
診断がされ、日常生活にも支障が出ている状態 疾患が原因の場合もあり
そして、健常の段階を含めて上の図に示すような流れになります。段階によって、それぞれ転倒予防の対策が異なります。
- 健常:認知症予防、転倒予防
- SCD・MCI:認知症重症化予防、
転倒予防、(周囲の協力) - 認知症:環境調整、周囲の協力
これらが、『健常』『SCD・MCI』『認知症』に対しての、主な対策です。このことをまずは考え方のベースとして知ってください。では、それぞれについて考えていきますが、まずは、認知症についてのおさらいをします。
1.認知症とは?
いつか認知症になるのか?
年齢を重ねると、認知症になるリスクは上がっていきます。日本における65歳以上の認知症の人数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)に達すると予測されています。高齢化と比例して認知症の方も多くなり誰もが関わる可能性がある社会となります。そして、認知症は診断されると現在の医療では完治は困難となっています。最近の研究では、認知症も予防がある程度可能であることが示されており、まずはならないようにする事がとても重要です。
認知症は転倒しやすくなるか?
認知症と転倒が関連している研究の報告も上がっています。ある研究では、認知症高齢者の転倒リスクは健常高齢者の約8倍となる報告もあり、受傷後の回復率も極めて遅いと言われています。非認知症と比べて各疾患では以下のようになります。
- アルツハイマー型認知症:約1.3倍
- 脳血管性認知症:約1.5倍
- レビー小体型認知症:約2.2倍
引用文献:転倒予防白書2019 武藤芳照ら p236-241
「もの忘れ」と「認知症」の違いとは?
加齢によるもの忘れ | 認知症によるもの忘れ | |
体験したこと | 一部を忘れる (例:朝ご飯のメニュー) | すべてを忘れている (例:朝ごはんを食べた事) |
学習能力 | 維持されている | 新しい事を覚えられない |
もの忘れの自覚 | ある | なくなる |
探し物に対して | 努力して見つけられる | いつも探し物をしている 誰かが盗ったなど 他人のせいにすることがある |
日常生活への支障 | ない | ある |
症状の進行 | 極めて徐々に | 進行する |
引用サイト:政府広報オンライン「もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン」より抜粋 もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)
ポイントは日常生活に影響が出ているかどうかです。朝ご飯のメニューなど忘れることが、私もよくあります。認知症だと決めつけてネガティブな心理状態にならないよう注意が必要です。
2.【健常】に対する対策
それでは対策をそれぞれ説明します。繰り返しますが、まずは、認知症にならない事が重要です。
下の図は、認知症のリスクが高まる9大条件として示されている項目です。
引用文献:英国の医学雑誌『ランセット』への掲載論文より
Livingston G,et al.Lancet.2017 jul 19.pil:S0140-6736.dol:10.1016/S0140-6736(17)31363-6.
見て頂けたら分かるように、半分くらいは生活習慣で変えられるものです。
「食事」「運動」「社会的交流」、特別なことではないこれらの事をするだけで、認知症の予防効果はとても大きいです。まずは、生活を見直してみましょう。
そして、転倒予防のために筋力トレーニングなどの運動習慣を身に付けましょう。
3.【SCD・MCI】に対する対策
徐々に症状が出始めてきています。まだ日常生活では支障がないので、周囲の協力は必要な場合のみです。MCIからアルツハイマー型認知症への移行率は全体では年間10%前後、個人では発症から5年以内に約50%が認知症に移行しています。すべての方が認知症に移行するわけではありません。そのため、重症化予防が重要です。内容は、基本的には先程の健常者の認知症予防と変わりありません。しかし、生活習慣の中でもの忘れなどがあり習慣化が難しいと感じるものに関しては、「メモをする」「携帯電話(スマートフォン)のアラームをつける」「家族に声をかけてもらう」などで工夫をしてみてください。参考までに、WHOがすすめる認知症のリスクを減らす12の方法を紹介します。どれもある程度個人でも可能なものが多いと思います。
その他、転倒と関連がある点では、歩行速度が低下してきます。秒速0.8m以下で、MCIを疑う事が多いのですが、これは横断歩道を青信号で渡り切れない速さです。歩行速度が低下してくると、1歩の歩幅や振り出しも減少し筋活動も少なくなるため、下肢筋力の低下にもつながります。筋力トレーニングとしては、歩幅を小さくしないためのトレーニング『踵上げ』と『もも上げ』の2つをおススメします。
また、運動だけではなく、踵上げやもも上げをしながら計算問題をする、野菜の名前を思いつく限り言う、脳トレをするなど運動+頭の体操をすると効果的です。これは二重課題と言って、2つの事を同時に処理する能力のトレーニングとなり、認知機能が低下している場合この処理する能力が低下しやすいのです。そのため、認知症予防・転倒予防両方に効果を示します。
4.【認知症】の対策
認知症は、軽度~重度までと個人差が大きいです。しかし、傾向は存在しています。下記に、認知症高齢者の転倒に関連する行動を示します。
- 興奮して歩き回る
- 突発的な行動をとる
- 指示に従わず1人で行動する
- 尿意、便意が気になって落ち着かない
- 実際はできない行動を自分1人でできると思って行動する
- 車椅子から急に立ち上がったり、歩きだそうとする
- 危険に対して意識せずに行動する
- 車椅子の座位姿勢バランスが崩れる
- 看護、介護援助に対して抵抗する
- せん妄、意識レベルの変化がある
引用文献:鈴木みずえ 認知症高齢者の転倒予防:認知症高齢者の視点からの転倒予防のエビデンスと実践 日本転倒予防学会誌 Vol2,No3:3-9 2016
このような状況が転倒につながる事が多いです、では、何が関係あるのか?
大きく2つ考えられるのは『リスク管理が自分でできない』『焦りなど衝動的な行動が多い』ということです。
「リスク管理が自分でできない」場合は、本人の運動機能とやろうと思っている動作能力が食い違います。その時に転倒に至りやすくなります。対策として、とっさに動いても転倒リスクが減るように手すりを設置したり、歩行補助具を近くに置いておくなどの福祉用具の活用があります。「焦りなど衝動的な行動が多い」場合でよくあるのが、トイレ関連です。尿意を感じとっさにトイレに向かおうとした際での転倒などです。トイレに関しては、同居の家族がいれば時折トイレの声掛けをして急な尿意を回避する方法もあります。または、歩行での移動が危険な場合はポータブルトイレの使用もひとつの手段です。
認知症の場合は、本人が生活習慣・リスクなどすべてにおいて自己管理が難しくなっていきます。認知症の方の転倒予防は、環境調整によって自然と転倒しにくくする、家族の協力で生活リズムを作りサポートするなど周囲の協力が必要となってきます。
5.最後に
認知症の転倒予防について段階に分けてお伝えしました。私自身も、認知症の方への転倒予防を考えるのは大変であると感じます。ご家族へのアプローチ、環境調整、運動機会の提案など考える事は多岐に渡ります。これではないといけないという正解はありません。試行錯誤を繰り返し行ってみて下さい。